千の松明～音絵巻～俵藤太大百足退治伝説　大津シンフォニックバンド　

千の松明～音絵巻～俵藤太大百足退治伝説　阿部勇一作曲


2017年 大編成版　/　演奏：大津シンフォニックバンド（ライブ録音）
楽譜：CAFUA
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小編成版　http://www.cafua.com/products/detail1...



◆三上山大百足退治伝説

むかしむかし、近江の国(おうみのくに→滋賀県)に、
俵藤太(たわらとうた)という弓の名人がいました。

ある日、琵琶湖(びわこ)にかかっている橋(瀬田の唐橋)
を渡っていると、人間の五倍もある大蛇(だいじゃ)が、
橋のまん中に横たわっていました。

二つの目をランランと光らせて、口から炎をはきだし
ています。たいていの者ならこれを見て逃げだすでしょ
うが、さすがは勇気ある弓の名人

「こんなところに寝そべるとは、邪魔な奴だ」

と、いいながら、藤太は大蛇の背中をゆうゆう
と踏みしめながら乗り越えてしまいました。
すると「もし、もし」と呼びとめる者がいます。
そこには大蛇の姿はなく、美しい女が立ってい
ました。

「なにか用か？」

「はい、あなたさまに是非お願いしたいことが
ございます」

　美しい女は、丁寧に頭を下げてこう申しまし
た。
「こんな姿に化けてはおりますが、わたくしは
この橋の下に住む竜でございます。あなたがと
ても強いお侍とお聞きし、大蛇に化けて橋の上
でお待ちしておりました。
噂通りあなたは勇気のあるおかたで、大蛇を見
ても顔色一つ変えませんでした」

「実は向うに観えます三上山(みかみやま)に住
む大ムカデが、ときどきこの湖に来て、わたく
しどもの竜の仲間をさらっていくのです。この
ままでは一族は滅んでしまいます」
「なるほど、しかし相手は単なるムカデであろ
う。竜ならムカデなどどうでもなことではない
か？」
「いいえ。なにしろ相手は三上山を七巻き半も
巻くという大ムカデ。とても私どもの手におよ
びません。お願いです。どうか大ムカデを退治
して頂けないでしょうか」
そこまで頼まれれば、天下の弓の名手！藤太も
後へはひけません。

「わかった。そんなにこまっているなら、わし
が助けてあげよう」

「ありがとうございます。では、こちらへ」

女は藤太の前に立って歩きはじめました。





いつのまにできたのか湖の上に道が続いていて、
その上を女はどんどん進んでいきます。

しばらく行くと、

むこうに竜宮城が見えてきました。

金銀をちりばめた竜宮城は
　　　　目のさめるような美しさです。

藤太がうっとり眺めていると
竜王(りゅうおう)が家来をつれて
迎えに出てきました。


「さあ、どうぞどうぞ」


藤太の案内された部屋は、
水晶をしきつめた大広間です。

御膳の上には山のようにごちそうがならべられ、
金のかめには上等の酒がなみなみと入っています。


やがて美しい女たちが現れ、笛や鐘の音にあわせて
踊りはじめました。



藤太はまるで夢の中にいるような気分で、
時間の経つのも忘れていました。



突然！大広間が暗くなりました。
「藤太さま、大ムカデがやってきました」

藤太を竜宮城へ案内した女がふるえる声で叫ぶと、
藤太は弓と矢を持って立ちあがりました。

「よし、みんなかくれろ」

三上山の空がにわかに赤くなったかと思うと、
何千もの松明の光がこちらにむかってきます。

「あそこが大ムカデの目にちがいない」

藤太は弓に矢をつがえると、
いちだんと光っている二つの火の玉ような
まん中をめがけて矢を放ちました。

ガチン！

矢が岩にあたったような音をたてて、はねかえ
りました。

藤太はすばやく、二本目の矢を放ちますが、　
この二本目の矢もはじきとばされてしまいまし
た。

矢はもう、あと一本しか残っていません。

大ムカデはうなり声をあげながら、どんどん近
づいてきます。

「これは弱った、どうしたものか」

さすがの藤太も、少しあわてました。

「ああ、どうしたらいいのだ？　なにか弱点で
もあればいいまだが・・・」

竜王は、藤太の横でおろおろするばかりです。

「弱点。・・・うむ。そうだ、」

藤太は三本目の矢の先を口に入れると、たっぷ
りと魔よけのつばをつけました。

魔物には人間のつばが魔除けになるということ
を思い出し、その矢で最後の矢を放ちました。

矢は大ムカデの額(ひたい)へと食い込みます。

「ウギャーーー！」大ムカデは地響きのような
叫び声をあげました。

それと同時に、何百という火の玉が一度に消え
たかと思うと、ものすごい水しぶきがあがりま
した。

「ありがとうございました。これで安心して暮らせます」

竜王は何度も頭をさげて、藤太にお礼を言いました。

家来に命じて米を一俵と絹を一反、そして釣り鐘を一つを運ん
でこさせて、

「これはお礼のしるしです。どうかお持ちください」
と言いました。

藤太は喜んで贈り物を受けとり、
竜王の家来たちに運ばせながら家へ持って帰りました。

不思議な事に、
米俵の米はいくら出しても減ることがなく
絹の反物も切れば切るほど増えていく物でした。

おかげで藤太は、なに不自由なく暮らすことができました。

そして釣り鐘は、近くの三井寺に奉納しました。

その美しい鐘の音は、琵琶湖を渡り近江の国のすみずみまで
鳴り響いたと言われています。

近江三上山　大百足退治伝説

おしまい