「地下街(ちかがい)に咲(さ)く忠誠(ちゅうせい)の種(たね)」

"日本(にほん)が「失(うしな)われた10年(じゅうねん)」を乗(の)り越(こ)えたはずなのに、景気(けいき)は思(おも)うように回復(かいふく)せず、若(わか)い世代(せだい)を中心(ちゅうしん)に将来(しょうらい)への不安(ふあん)が渦(うず)巻(ま)いていた。そんなある日、東京(とうきょう)の地下街(ちかがい)にある小(ちい)さな古(ふる)いパン屋(や)で働(はたら)くフミコは、従業員(じゅうぎょういん)が高齢化(こうれいか)している店(みせ)をなんとか支(ささ)えようと、毎日(まいにち)早朝(そうちょう)から仕込み(しこ)を担(にな)っていた。店主(てんしゅ)のハットリは60代(だい)後半(こうはん)で、腰(こし)を痛(いた)めながらも生地(きじ)をこね続(つづ)ける頑固(がんこ)な職人(しょくにん)。

だが売(う)り上(あ)げは伸(の)びず、若者(わかもの)の多(おお)い地下街(ちかがい)でも客足(きゃくあし)はまばら。フミコの友人(ゆうじん)は「転職(てんしょく)したほうがいいんじゃない？こんな店(みせ)、もう時代遅(じだいおく)れだよ」と心配(しんぱい)する。それでもフミコは「ハットリさんのパンはあたしが初(はじ)めて食(た)べて感動(かんどう)した味(あじ)。これを絶対(ぜったい)に守(まも)りたいんだ」と笑顔(えがお)で答(こた)える。

やがてハットリが腰痛(ようつう)で入院(にゅういん)し、店(みせ)は存続(そんぞく)の危機(きき)に陥(おちい)る。仕方(しかた)なくフミコがひとりで仕込み(しこ)と販売(はんばい)を続(つづ)けるが、経験(けいけん)不足(ぶそく)でミスも多(おお)い。焦(あせ)りを隠(かく)せないフミコに追(お)い打(う)ちをかけるように、客(きゃく)がSNSに「味(あじ)が落(お)ちた」と書(か)き込(こ)む。心(こころ)が折(お)れそうになるフミコだったが、「自分(じぶん)がいま離(はな)れたら、店(みせ)は本当(ほんとう)になくなる」と踏(ふ)みとどまり、一度(いちど)だけハットリを訪(たず)ねてパンの作(つく)り方(かた)を再確認(さいかくにん)することにした。

ハットリの病室(びょうしつ)で改(あらた)めて教(おそ)わった秘伝(ひでん)のレシピとコツをメモに取り、フミコは店(みせ)に戻(もど)る。翌朝(よくちょう)のパンは見違(みちが)えるようにふっくら焼(や)き上(あ)がり、SNSでも好評(こうひょう)が広(ひろ)がる。
人(ひと)の忠誠(ちゅうせい)は結果(けっか)だけで測(はか)れない。どれだけ厳(きび)しい状況(じょうきょう)でも、誰(だれ)かの思(おも)いを背負(せお)い、守(まも)り抜(ぬ)こうとする強(つよ)さこそ、本当(ほんとう)の忠誠(ちゅうせい)。それは時代(じだい)が変(か)わっても色褪(いろあ)せない価値(かち)なのだ。"