さくらんぼの実る頃、Le Temps des cerises、シャンソン、紅の豚、嶋田雄紀＆石坂奏デュオコンサート 2022年4月10日(日)松本公演

ジブリ映画「紅の豚」でジーナがホテルアドリアーノで歌っていたシャンソンの名曲「さくらんぼの実る頃」を演奏しました！この曲は恋の歌(切ないタイプの恋)という面と、悲しい歴史への追悼歌という、２つの面がある作品です。宮崎駿監督の描いた紅の豚では、結ばれることのないマルコ(ポルコ)との恋と、過去の結婚が報われていないジーナ(3回結婚して3人とも亡くなっている)の人生、という2面性があっての歌唱だったのかなと思っています。

　本作品の成立の背景としては、まず純粋な恋の詩がありました。その詩を書いたのは権力の私物化・暴力的な管理統制・不平等に抗う革命活動家だった詩人ジャン＝バティスト・クレマン。旬の短い赤いサクランボの儚(はかな)さに短い青春の情熱的な恋の喜び悲しみを重ねた内容の3番まで3節の詩を1866年に書いています。この2年後にテノール歌手のアントワーヌ・ルナールが曲を付け発表されたのが本作品です。
　それから数年経った1871年、ナポレオンの甥っ子(ナポレオン3世)が率いた(第二帝政)フランスがプロイセンに滅多打ちにされた普仏戦争後のパリで労働者たちによる革命が起きてパリ・コミューンが樹立し、帝政の後継として正式に発足していた第三共和制の政府軍とコミューンとの激しい市街戦が繰り広げられます。ここには活動家で本作品の作詞のクレマンも参加していたわけですが、コミューンの立て籠もるバリケードにさくらんぼのかごを携えた看護師ルイーズと出会います。ルイーズは危険をかえりみず懸命に負傷者の手当にあたりましたが、やがて戦闘に巻き込まれて亡くなってしまいます。そしてクレマンはルイーズに捧げる歌として新たに4節目の歌詞を制作し、恋の歌からコミューン参加者への追悼の歌へと意味合いが変わりました。こうして現在の形となった本作品は、コミューンへの弾圧、特に参加者が多数虐殺された「血の一週間」を悼む思いを込め、コミューン崩壊後の1875年前後から第三共和政に批判的なパリ市民がしきりに唄ったことから有名となり、今日まで歌い継がれるシャンソンとして最古級と、長く愛される作品になっています。

この動画は2022年4月に熊本・松本・立川で開催された嶋田雄紀&石坂奏デュオコンサートの松本公演での演奏を収録したものです。

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