パレス / 序曲「リシルド」【吹奏楽】Gabriel Parès / Richilde Ouverture

ウインドオーケストラオリジン第6回定期演奏会
日時:2025年1月25日(土)
会場: タワーホール船堀　大ホール


演奏: ウインドオーケストラオリジン
指揮: 永原 裕哉

撮影: G.K.Works

【楽曲解説】
作曲者について

　フィリップ・シャルル・ガブリエル・パレスは1860年にパリで生まれました。父親はギャルドの初代クラリネット首席奏者であり、パレス本人もパリ音楽院でコルネットおよびデュボアやドリーブの下で和声を学びました。コルネットで１等賞をとるなど優秀な成績を収めたパレスは歩兵第69連隊軍楽隊長・トゥーロン海軍軍楽隊長を経て、1893年に33歳の若さでギャルドの第４代楽長に就任しました。
　活発な演奏活動の他、レパートリー拡充のために様々な作品の編曲を行い（主要なものとしてベルリオーズ作曲『幻想交響曲』（全曲）やビゼー作曲『アルルの女 第１組曲・第２組曲』など）、自らも本日演奏する『リシルド序曲』をはじめとした吹奏楽作品を残しました。また、1892年にコミック・オペラ『コルニーユ親方の秘密』を作曲して好評を博したり、1897年に上下巻からなる『吹奏楽法』を著してフランス吹奏楽の規範となったり、編成の中にバスクラリネット・サリュソフォーン・コントラバスを投入してギャルドの響きをより豊かなものにしたりするなど、精力的に活動しています。1904年にはレジオン・ドヌール５等勲章を受章しました。
　病気の為1910年にギャルドの楽長を退任したあとは様々な音楽連盟の名誉会長を務め、1918年にアメリカの要請に従いギャルドの元メンバーを集めてフランス勇士音楽隊を組んで、サンフランシスコ博覧会への出演や全米200か所でのコンサートを行い、好評を博しました。
　1934年にパリで没し、モンパルナスの墓地に葬られました。

楽曲について

　「リシルド」とはフランス北部のバランシェンヌという場所の中世における女性領主の名前とされており、1894年にギャルドが同地で演奏するにあたり、楽長であったパレスが作曲しました。当時のギャルドにはサクソルンが含まれており、現代の吹奏楽の編成で演奏するのは困難です。そのため、本日の演奏は日本の作曲家・建部知弘が1991年に現代の吹奏楽編成にトランスクリプションしたものを演奏します。
　曲は「序奏―A―B―A―B―コーダ」という構成になっていますが、展開部が短くまとめられた序奏・コーダ付きのソナタ形式とみることができそうです。霧のような弱奏のハーモニーの中で、ホルンによって第１主題の断片が示され、それに応えるようにオーボエとクラリネットによって第２主題の断片を奏でて始まります。２つの主題の断片は絡み合い、組み合わされてひとつのメロディとなったりしながら全合奏によるクライマックスを形成します。オーボエとアルトサクソフォーンに旋律が移ってそれが収まると、アレグロの主部に入ります。
　第１主題は変ロ短調の木管による細かなパッセージによって上昇する音型で、しなやかでありながらも戦いに出かけるような勇ましい旋律です。それに対応するようにゆるやかな下降音型が応答し、２つの音型のせめぎあいによって少しずつ盛り上がっていきます。盛り上がりが頂点まで届き強奏されるとだんだん音が弱まっていき、その後フルート・クラリネット・ホルンによって第２主題が歌われます。朗らかで優美な旋律であり、第１主題との対比が大変印象的です。また、この主題は第１主題の平行調である変ニ長調で書かれており、ソナタ形式では一般的なスタイルで曲が進んでいきます。第２主題が盛り上がると全合奏でコラールが歌われ、一度落ち着きます。
　再現部は変ロ短調で第１主題が型通りに再現されますが、その後登場する第２主題は変ト長調で再現されています。コーダは第１主題の同主調である変ロ長調に転調して２つの主題を巧みに用いながら絡ませ合い、全合奏のクライマックスを迎え、華々しく変ロ長調の和音を奏でて、終止します。