XBRL GL：フィンランドの挑戦 — リアルタイム経済を実現するためのデータ標準

現在、フィンランドには財務データを提示するための共通標準はありません。会計ソフトウェア製品はそれぞれ独自の専有形式をサポートしており、エクスポート形式はソフトウェアごとに異なります。この状況では、ソフトウェアを変更する際の会計システム間のデータ転送は労働集約的になり、税務監査や財務監査で必要とされる形式への変換や提供にも時間がかかります。

こうした課題に対して、フィンランドのリアルタイム経済（Real-Time Economy, RTE）プロジェクトは、国際標準 XBRL GL の導入を検討しています。XBRL GL は、会計（取引レベル）のエクスポートを財務システム内で標準化された形式で電子的に表現するための国際標準です。

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【XBRL GL：フィンランドの挑戦 — リアルタイム経済を実現するためのデータ標準】
https://www.sambuichi.jp/?p=16180

▶ 【中央データ伝送と「一度だけ原則」】

中央データ伝送は、企業の財務データを標準化されたデータ構造に従って、複数のデータ利用者（例：税務当局や統計当局）に伝送できる国家的なソリューションとして構想されています。この仕組みの目的は、企業に課されている報告義務の数と重複を減らし、管理負担を軽減することです。

このソリューションでは、企業がこれまで各当局に個別かつ直接提出していた財務データを、中央データ伝送を通じて一度提出する形にまとめます。これにより、「一度だけ原則（Once-only principle）」の適用を目指しています。この原則では、企業が中央データ交換を通じて財務データを一度提出し、その後、各当局や利害関係者が、それぞれの法的なアクセス権に従って同じデータを利用します。

XBRL GL は、分類体系（タクソノミー）に従った会計データの表現を可能にし、中央データ交換を通じて当局へ会計データを自動転送する際の標準フォーマットとして位置づけられています。

▶ 【XBRL GLと会計データの取り扱い】

XBRL GL は、取引標準と報告標準の間を接続する「橋渡し」の役割を想定して設計されています。フィンランドでは、TALTIO プロジェクトを通じて XBRL GL 標準の試験的な導入が行われました。TALTIO は、XBRL GL にフィンランド独自のラベルや要素を追加した拡張仕様です。

XBRL GL の目的は、会計データの構造と内容をタクソノミーに沿って統一し、機械処理しやすい形で表現することです。このような構造化された会計データを利用することで、政府への報告が、企業の日々のビジネス活動やプロセス（たとえば会計エントリの記録）に連動して生成されるワークフローが想定されています。

RTE プロジェクトの実験では、XBRL GL 形式の取引レベルの会計データが以下の分野で利用対象として扱われました。

・法人税
・付加価値税（VAT）
・税務監査
・統計
・監査

ソフトウェアベンダーは、自社システムに XBRL GL 対応のエクスポートやインポート機能を実装する作業を行い、想定された工数の範囲で機能追加が実施されています。

XBRL GL は、欧州相互運用性フレームワーク（EIF）の原則と目的に対する CAMSS 評価で高い評価を受けており、欧州委員会の資料では、相互運用性を促進するための標準のひとつとして取り上げられています。

▶ 【普及に向けた課題と法制化の検討】

XBRL GL の利点は、個別の企業やソフトウェアにとどまらず、広範な採用と相互運用性の確立によって最大化される前提で整理されています。

RTE プロジェクトの調査では、XBRL GL の内容や利点が関係者に共有された一方で、自主的な採用のみを前提とする場合には、本番運用レベルでの継続的な利用まで到達しにくいという状況が報告されています。そこで、XBRL GL の広範な採用については、拘束力を持つ法制化を含めて検討する必要があると整理されています。

ソフトウェアベンダーや民間のデータ利用者は、必要な変更内容やスケジュールを明確に把握し、重複した独自ソリューションの維持を避けるために、法的な位置づけやロードマップの明確化を求めています。

中央データ交換については、専用の法律を制定する構想が示されており、その中に XBRL GL を会計データの標準形式として位置づけることが検討項目のひとつになっています。XBRL GL がフィンランドで義務的な標準として扱われる場合、長期的な継続性や公的な権威付け、法制度との一体化を確保するため、そのガバナンスを公的機関が担う形に移行する必要があるとされています。

▶ 【結論】

リアルタイム経済プロジェクトは 2024 年末で一区切りとなりましたが、XBRL GL の扱いと中央データ伝送の仕組みについては、法案準備や運用設計を含む継続的な検討が続いています。

XBRL GL を用いた会計データの標準化と中央データ伝送の導入は、会計データの流れを電子的に統一し、企業の管理負担を軽減し、「一度だけ原則」に沿ったデータ提供を行うための基盤として位置づけられています。