【しんどい】統合失調症で疲れやすい原因と対策【精神科医が解説】

質問「統合失調症で疲れやすい時どうしたらいい？」に精神科医が回答します。
#精神科 #統合失調症 #疲れやすい

0:05 （１）はじめに
0:20 （２）統合失調症での疲れやすさと影響
4:07 （３）統合失調症で疲れやすい時の対処法
4:43 ①治療とリハビリ
6:19 ②家での工夫
7:57 ③受け入れと再発予防
9:46 （４）まとめ

統合失調症では、陰性症状や残った幻聴など様々な原因から、改善後も長期間「疲れやすい」状態が残ります。できる治療やリハビリはしつつも、現実的な工夫や受け入れをして、生活困難から服薬中断しての再発の悪循環を防ぎます。

ご質問「統合失調症で疲れやすい時どうしたらいい？」について、精神科医10.5分で回答しています。
出演：春日雄一郎（精神科医、医療法人社団Heart　Station理事長）

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（１）はじめに

今回は「統合失調症で疲れやすい時、どうしたらいい？」というご質問にお答えします。

統合失調症は、急性期に幻聴や妄想などの症状が目立つ精神疾患です。脳内のドーパミンの作用が過剰になることが主な原因とされており、約100人に1人がかかる、決して珍しくない病気です。

統合失調症の症状は大きく3つに分けられます。幻聴や妄想など、健康な時にはなかった体験が現れる「陽性症状」、意欲の低下や感情表現の減少など、もともとあったものが失われる「陰性症状」、そして注意や集中が難しくなる「認知機能障害」です。

病気の経過は、前駆期（不眠や不安などの前ぶれ）、急性期（幻聴や妄想が激しい時期）、休養期（急性期は落ち着くが陰性症状が目立つ時期）、回復期（徐々に活動が戻り社会復帰を目指す時期）の4段階に分けられます。

（２）統合失調症での疲れやすさと影響

薬物治療によって急性期を抜け、幻聴や妄想といった陽性症状が改善しても、それで終わりではありません。回復した後も、意欲の低下や疲れやすさなどの陰性症状が中心となる時期が続きます。この見えないしんどさは、生活や社会復帰にとって大きな壁となることが少なくありません。

休養期には特に3つの困難が目立ちます。何をするにも意欲や気力が湧かず一日中ぼんやり過ごしてしまうこと、喜怒哀楽が乏しくなり楽しいはずのことも楽しめなくなること、そして心身ともにエネルギー切れに近い状態で、すぐに疲れてしまうことです。

実際、統合失調症の人の約6割が、生活に支障が出るレベルの疲れを自覚しているという報告もあります。この強い疲れは日常生活の大きな障害となり、活動を減らし、生活の質を下げてしまいます。さらに、疲れから服薬管理が困難になると、再発リスクも高まってしまうのです。

なぜ統合失調症では疲れやすいのでしょうか。まず、陰性症状の影響で脳のやる気や意欲を出す機能が低下し、エネルギーが湧かない状態が続きます。認知機能障害の影響で、以前なら簡単だったことでも脳が懸命に働く必要が出てくるため、頭が疲れやすくなります。また、改善したとしても残る幻聴や不安に対処し続けることで、体力を消耗してしまう場合もあります。

疲れやすさは悪循環をもたらします。入浴や食事の準備など基本的な生活維持が難しくなり、昼夜逆転や生活リズムの乱れ、食事の乱れにつながります。そして疲れから服薬管理がうまくできなくなると、再発の引き金になってしまうのです。

（３）統合失調症で疲れやすい時の対処法

疲れやすさへの対処は、リハビリだけでは限界があります。症状を受け入れながら、現実的な工夫をしていくことが大切です。対策は大きく3つに分けて考えることができます。

①治療とリハビリ

抗精神病薬は統合失調症の治療で非常に重要ですが、疲れやすさなどの陰性症状への効果は限定的です。そこでリハビリの重要性が出てきます。認知機能の改善や体力向上を目指し、慎重にリハビリを進めることで、陰性症状の改善を図ります。

自発的に活動を増やすのは難しいため、精神科のデイケアなど活動の枠組みを利用すると続けやすくなります。統合失調症の治療は、薬物療法、精神科リハビリ、心理社会教育の3本柱で進めます。薬物療法で陽性症状を抑え再発を防ぎながら、リハビリの土台を作ります。そして疲れやすさが続くことを理解し、現実的な対策につなげていきます。

リハビリでは頑張りすぎは禁物です。急な無理や環境の変化はストレスとなり、再発の引き金になることがあります。無理はしないけれど継続的に、体調を見ながら少しずつ進めることが基本です。精神科のデイケアや作業所など、専門家のいる環境で枠組みを決めてペースをつかむのも良い方法です。

②家での工夫

家での日常生活は、案外自分で動いたり考えたりする必要があり、疲れやすさが響いてしまいます。そこで意識的に楽をする工夫をすることで、負担を減らし疲れの影響を減らします。自助努力だけでは難しい場合は、精神科の訪問看護などサポートを積極的に活用しましょう。

具体的な工夫としては、やることをシンプルにして一度に一つだけにする、作業は座って行う、こまめに休憩を取るなどがあります。毎日同じ時間に起きて寝ることで生活リズムを維持し、心身の安定や疲れやすさの改善を図ります。着替えや短い散歩など、小さな目標でも最低限の活動を維持することが大切です。

自力で難しい時は、宅食サービスを使って食事準備の負担を減らし栄養を確保する、精神科訪問看護で服薬管理や体調チェックを受ける、ホームヘルパーに掃除や買い物など必要な家事の援助を受けるなど、様々なサポートを活用できます。

③受け入れと再発予防

疲れやすさと無理して戦うのではなく、付き合っていく姿勢が大事です。強い疲れから服薬が中断し再発するという悪循環を断ち切り、疲れやすい自分を受け入れながら、服薬と最低限の生活を継続していくことを目指します。

疲れが服薬中断につながる心理として、疲れ果てて薬の管理や通院が困難になる、飲んでも辛いなら意味がないと感じる、回復への希望を失い自暴自棄になるなどがあります。

ここで重要なのは3つの受け入れです。統合失調症という病気と共に生きていく現実を受け入れること、疲れやすさは長く付き合う症状だと受け入れること、そして糖尿病のように継続的な服薬が必要な病気だと受け入れることです。

疲れやすくてもできる再発予防として、どんなに疲れていても服薬だけは守る、食事と睡眠のリズムを保って心身の土台を守る、調子が良くなってきたら短い散歩などから無理なくリハビリを再開する、という点を心がけましょう。

（４）まとめ

統合失調症では、幻聴や妄想などの陽性症状のほか、疲れやすさが目立つことが多くあります。この疲れやすさは、改善した後に陰性症状などを背景に避けがたく生じてくる症状です。

治療での再発予防を土台に、無理のないリハビリを続けて徐々にでも疲れやすさを減らしていくことが大切です。一方で、リハビリをしても残ることが多いこの疲れやすさをまず受け入れ、その中でできることをシンプルにするなど、できる対策や生活を模索していくことが重要です。

疲れやすさは避けがたい症状ですが、その中での生活を工夫し、サポートを活用しながら、服薬を継続して再発を防いでいくことで、より良い生活を送ることができます。完璧を求めず、今の自分にできることから始めていきましょう。


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【監修者】
医療法人社団Heart　Station　理事長　府中こころ診療所院長　春日雄一郎
精神科医（精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医）
2005年東京大学医学部卒業、NCNP病院、永寿会恩方病院等を経て、2014年に府中こころ診療所を開設、その後医療法人化し理事長に就任、2021年8月に分院「こころ診療所吉祥寺駅前」を開業。メンタルクリニックの現場で、心療内科・精神科の臨床に取り組み続けている。