渋川八幡宮　群馬県渋川市渋川　no.0023

渋川八幡宮
群馬県渋川市渋川
no.0023

主祭神
品陀和気(ほむだわけの)命

創建は建長年間(1249〜56年)とされ
渋川義顕が当地に館を築いた際に
鎌倉の鶴岡八幡宮を勧請したという

渋川義顕は
足利尊氏の高祖父にあたる
清和源氏義国流・足利宗家4代当主
足利泰氏の次男とされ
同母兄には足利尾張家の祖にして
斯波氏の祖となる斯波家氏がいる

斯波家氏、渋川義顕ともに
北条得宗家に次ぐ家格の
名越(なごえ)流北条氏
北条朝時の娘を母とし
当初、斯波家氏は
家督を次ぐ予定であった

しかし父・足利泰氏が
北条得宗家の娘を正室に迎えたため
弟の足利頼氏が嫡男となっている

こうした経緯から
斯波氏、渋川氏はともに
足利一門の中で別格扱いを受け
室町期になると
足利尾張家の斯波氏は管領を
渋川氏は四職を担うことになる

なお渋川義顕は
当地一帯の渋川荘を
領したことから
渋川の苗字を名乗ったという

康元年間(1256〜57年)には
白井城主・長尾景煕(かげひろ)が
上野国に入国の際に
社殿を造営したと伝わる

長尾景煕は
5代鎌倉将軍・藤原頼嗣が
京へ送還されたために
6代鎌倉将軍に就任する
宗尊親王のお供をした
上杉重房に従い、家臣となっている

文永3年(1266年)に
宗尊親王は謀反の疑いで
帰洛させられた後も
上杉重房は武士となって
足利泰氏に仕えたことから

社殿を建立した長尾景煕は
足利泰氏の家臣の家臣である陪臣として
渋川荘の統治や普請などに
関わっていたのかもしれない

永正年間(1504〜21年)には
埴田(うえだ？)光重が
社殿を再造営したが
吾妻川と利根川の合流点にある
白井城に移ったことから
入沢氏があとを継いだとされる

境内に隣接して
慶長年間(1596〜1615年)に造営された
群馬県指定重要文化財の
旧入澤家住宅が鎮座し
貴重な史料が「入澤家文書」として
残されているという

その系図によれば
入沢氏は5代執権・北条時頼の
5世孫にあたる時俊が
鎌倉幕府滅亡の際に
信濃国佐久郡入澤村に蟄居したことが
入沢氏の起源とされる

その後、入沢時吉が
現・東吾妻町の手子丸(てこまる)城主
大戸真楽斎(しんらくさい)に仕えて
弘治3年(1557年)渋川村の25貫文を
あてがわれたという

また同年、大戸真楽斎は
当社の免地(めんち)として
3貫300文を寄進したことが
入澤家文書に残されているという

さらに元亀3年(1572年)には
西上野攻略を計る武田信玄により
旧社領と合わせて8貫文が
安堵されたという

とりわけ八幡宮は古来より
神仏習合色の強いお社であることから
寛政年間(1789〜1801年)には
慈覚大師円仁が開山した
天台宗眞光寺の末寺・如来寺が
当社を管理したとされる

また如来寺の史料には
当社が入沢家の所有であると
たびたび現れることから
室町期より入沢氏が継続して
当社に深く関わっていたと見られる

そして明治の神仏分離の際には
如来寺が管理していた神宝などが
八幡宮に返還され
関係は断絶したと言われる

なお本殿は
群馬県の重要文化財に指定され
石碑の記載によれば
慶長7年(1602年)入沢新左右門吉広により
建立されたと記されている

また境内には祖霊社を始め
七福神のお社や
猪の形をした磐座などが鎮座し

神職が築いたと見られる
社殿背後をめぐる回廊が
整備されており
参拝者を楽しませる工夫が
至るところに見られる境内と
なっている

なお猪は八幡宮と関係が深く
奈良時代の第48代称徳天皇の御代に
僧侶である弓削(ゆげ)の道鏡が
重用されて並ぶものなき法王に就任し
天皇の地位も奪おうとした際に
現れている

「道鏡を天皇に立てよ」と
宇佐八幡宮から御神託があった際に
真偽を確かめるために
和気清麻呂が宇佐八幡宮に派遣されると
「天皇は必ず皇族から立てよ」との
御神託を直接受けたので
包み隠さず報告した

すると道鏡が皇位に
就くことはなかったが
和気清麻呂は処罰され流刑となり
刺客が派遣されて
命の危機を迎えてしまう

和気清麻呂は流刑地に向かう途上で
刺客に足の腱を切られ
絶対絶命のピンチになるのだが
宇佐八幡宮の御神徳により
300頭の猪が現れて
和気清麻呂の命を守ったとされる

この不思議な御縁から
渋川八幡宮では
猪の形をした磐座や
無数の猪の置物が鎮座しており
猪が崇敬されている様子が
見て取れる

なお宇佐八幡宮神託事件により
皇位を簒奪する
悪人のイメージとなった
弓削の道鏡だが
近年では首謀者説に疑問が呈されるなど
当時の正確な政治状況の解明が
進められている

なお江戸時代の当地
群馬郡渋川村は
1,677石が幕府領で
岩鼻代官所が支配し

天台宗眞光寺領が
50石あったとされる