懴悔 自身に問いかける：【法話】小池陽人の随想録

懴悔の大事さ。先日、鎌倉にあります臨済宗大本山円覚寺派管長の横田南嶺猊下が実践されておられます「布薩」という修行を学びに行ってまいりました。

布薩とは、満月と新月の月二回、仏教徒が守るべき戒律（仏様との約束）を読み上げ、三世（過去・現在・未来）にわたる三千諸仏に百回礼拝（五体投地）し、懺悔する古来の仏教儀式です。

仏教では、三学という教えがあります。

三学とは、「戒学・定学・慧学」を指します。まず、戒学とは、戒律の護持。つまり、仏様との約束を守ることです。次に、定学とは、精神集中。

そして、慧学とは、ものごとをありのままに正しくみる智慧を獲得することです。

戒を守ることによって定が得られ、定が得られることによって智慧がでてくるというように、仏道の全ての基礎土台は、「戒を守る」ことにあります。

円覚寺の布薩は、お釈迦様の次のような言葉から始まります。

「自ら過ちをなさば自ら汚れ、自ら過ちをなさざれば自らが浄し、けがれと清浄とは、すなわち己にあり。他に依てきよめらるることなし。」

自分が戒（仏様との約束）をしっかりと守っているか、自分自身に問いかけ、向き合い、反省するのが、この布薩という修行の意味なのです。

私がここで重要だと思う点は、「自分で自分に問いかける」ということです。

戒とは、他人から、ジャッジされるものではなく、ましてや守れていないからといって、他から罰せられるようなものでもないのです。

あくまでも自分で、自分自身を見つめ反省することが大切なのです。他人の目はごまかせても、自分のことを一番近くで見ている自分の目は、ごまかすことができません。

「反省する」ということの本質がここにあると思っております。他人からの評価などは、全く関係のないのことなのです。

　大乗仏教の代表的な戒に、十善戒という戒めがあります。たった十の約束ですが、一つとして完璧に守れそうなものはありません。

たとえば、最初の不殺生戒（他の命を殺めてはならない）は、人が生きていく上で厳密には守ることが不可能です。

植物も命であることを考えれば、たとえベジタリアンであっても、我々は殺生なしには生きられないのです。

では、なぜ、最初から守れないような戒をかかげるのでしょうか。

それは、不殺生戒であれば、他の命をいただいていることを忘れないため、他の命によって生かされているということに気づくためだと思うのです。

当たり前と思わずに、有難いことだと感謝することが大切であり、それこそが戒をとおして求められているのではないでしょうか。

つまり、戒に背くことが問題なのではなく、背いていることに気づかずに流されてしまうことの方が問題なのだと思います。

「今、戒に背いている」という気づきがあれば、反省し傲慢にならずにすみます。このような反省の心が、懺悔であり、自己を成長させてくれると私は考えています。そして、新たな一歩を踏み出す原動力となると信じています。

以前、ある方が、「日本人は無宗教なのではない。『迷惑かけたくない教』だ」と言っていました。とにかく、他人の世話になったり、他人に労力をかけたりすることに対して申し訳なく思う人が多いということを指摘していました。

誰しも病にかかり、年老いていく中で、自分でできないことが増えていきます。

そうした時に、このような考え方に囚われてしまえば、年老いていくほど生き辛くなってしまうのではないでしょうか。

しかし、布薩という修行をとおして感じることは、「人は迷惑をかけずに生きることは不可能だ」「他を犠牲にせず生きていくことは不可能だ」という事実です。

だから懺悔するのです。

迷惑をかけてしまうこと（他の命を犠牲にしていることも含めて）への反省、申し訳ないという気持ちを持ちながらも、それが生きていくことなのだということを受け止めることが大切です。

迷惑をかけてしまうことを理由に自分の存在を否定してしまうのではなく、「迷惑をかけて当然」と開き直ってしまうのでもなく、心から懺悔することで、仏さまに許していただくと同時に、自分で自分のことを受け入れる。

そうすることで、謙虚な気持ちでまた一歩踏み出すことができるのだと思います。

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