ブッダの脳　　潜在意識は書き換えられる

『ブッダの脳　心と脳を変え人生を変える実践的瞑想の科学』を読んで

「脳は変えられる」──この一文が、読後もずっと私の中に残っている。
『ブッダの脳　心と脳を変え人生を変える実践的瞑想の科学』は、脳科学と仏教的智慧を融合させ、誰もが日常の中で実践できる心のトレーニングを提示してくれる本だ。
これまで私にとって“瞑想”とは、どこか神秘的で、ストイックな修行のようなイメージがあった。しかしこの本は、それをがらりと覆した。瞑想は科学的に有効で、実際に脳の構造に影響を与え、人生の質を高めてくれる「誰にでもできる技術」なのだという。

著者のリック・ハンソン博士は神経心理学者でありながら、仏教の実践にも深く通じている。その両面からのアプローチが、この本の最大の魅力だ。
仏教に詳しくなくても、脳科学に明るくなくても、この本は読者をやさしく導いてくれる。例えば、「感謝の気持ちを意識的に深めることが、脳内のポジティブな神経回路を強化する」という説明は、すぐにでも試してみたくなるほど具体的だ。そして実際に、自分の生活に少し取り入れてみると、心の穏やかさがほんの少しずつ、しかし確かに増していくのを感じた。

何より感動的だったのは、「苦しみは避けられなくても、苦悩は減らせる」という仏教の教えと、それを裏付ける最新の脳科学が絶妙に響き合っていた点だ。
私たちは、生きていれば必ずストレスや不安、怒り、寂しさと向き合うことになる。でも、その感情に飲み込まれずに、それらをただ「ある」と認めて観察する力は、瞑想によって育てられるという。
そしてその習慣は、脳の中の扁桃体や前頭前皮質といった領域の働き方に影響を与え、ストレスに強く、思いやりに満ちた人間へと変化を促すのだ。まさに、心が脳を変え、脳が心を支えるサイクルが描かれていた。

また、本書は「変わること」がいかに難しいか、そしていかに可能であるかを誠実に語っている。どんなに忙しい日々の中でも、ほんの数分、呼吸に意識を向けるだけでも違う。その小さな一歩の積み重ねが、いつしか自分を支える軸になってくれる。それは、自分を責めるのではなく、やさしく育てていく感覚に近い。自分自身の脳に、愛と平和のための「道」を刻んでいくような感覚だ。

読み終えたとき、私はこの本を誰かに手渡したくなった。悩んでいる友人や、仕事に疲れている同僚、あるいは自分自身にプレゼントとして。
なぜならこの本は、「あなたは変われる」「あなたはすでにその可能性を持っている」と、静かに、でも力強く背中を押してくれる存在だからだ。
そして、変わるための方法は、どこか遠くの寺院や修行道場ではなく、いまここ、この瞬間から始められるのだということを教えてくれる。

『ブッダの脳　心と脳を変え人生を変える実践的瞑想の科学』は、読むたびに違う気づきを与えてくれる本だと思う。疲れたときに読み返したい。心がざわついたときに開きたい。
きっと、そのたびに自分の心と脳に、新たな風が吹くだろう。変化のきっかけは、こんなにも静かで、温かくて、力強い。


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