ベンチャーズの「眠れぬ夜」をオリジナルと聴き比べてみる

①ベンチャーズの「眠れぬ夜」（1981年7月発売のアルバム「ポップス・イン・ジャパン’81」より）0:00～
②西城秀樹の「眠れぬ夜」（1980年12月発売のシングル）3:11～
③オフコースの「眠れぬ夜」（1975年12月発売のシングル）6:27～

　1967年から続くベンチャーズの「ポップス・イン・ジャパン」シリーズは「ポップス・イン・ジャパン第2集」（1968年）、「ゴールデン・ポップス」（1970年）、「ポップス・イン・ジャパン‛71」（1971年）、「ポップス・イン・ジャパン‛73」（1973年）、「日本のポップス15年」（1975年）、「ポップス・イン・ジャパン・ベスト20」（1978年）と続き、1981年には「トーキョー・コーリン～60‛sポップ・オブ・ジャパン」と「ポップス・イン・ジャパン‛81」の2枚が同時発売されています。

　「トーキョー・コーリン」は加山雄三とグループサウンズのヒット曲のカバーですが、「ポップス・イン・ジャパン‛81」は当時の日本のヒット曲の中からオリコン・チャートで上位にランクされたものばかりを集めた和製ポップスのカバー集です。このアルバムにはベンチャーズのオリジナルも2曲を含まれていますが、その他の10曲は全て東芝側がリストアップし、ベンチャーズに提示してレコーディングされたものでした。和製ポップス10曲の中には前年（1980年）12月にリリースされ、オリコン・チャートで10位という好成績を残している西城秀樹の「眠れぬ夜」が含まれています。

　この曲は小田和正が作詞・作曲し、1975年にオフコースのシングルとしてリリースされた曲ですが、オフコースのオリジナルはオリコン・チャートで43位、レコード売上げも4.6万枚にとどまっているのに対し、西城のカバーはそれを遙かに上回る27.1万枚の大ヒットを記録していることから東芝がベンチャーズの新しいアルバムにふさわしい楽曲としてピックアップしたものでしょう。

　西城秀樹といえば「YMCA」や「ギャランドゥ」など弾けた曲が多いイメージですが、この「眠れぬ夜」は「ブルースカイ・ブルー」「「ドゥー・ユー・ノウ」などと同じく切々と歌い上げるバラードで、そのエモーショナルな歌声と抜群の歌唱力は聞く人を例外なく魅了する歌のうまさを感じさせます。ちなみに、この楽曲では日本で初めてボーカルにイーブンタイド社のハーモナイザー（声のピッチをずらし2重音声にする機械)というエフェクターが使用されています。

　ダブリングされた西城のハスキーな歌声は小田の乾いた高音ボーカルと比較すると湿り気のあるソフトな印象で、同じ曲でも歌う人によってこうも違うものになるのかと驚くほど異なった仕上がりになっています。演奏のキーもオフコースはGで歌っていますが、西城は4度下のE♭となっており、ベンチャーズも西城と同じキーで演奏しています。

　1981年の夏のジャパン・ツアーに合わせて新しいアルバムをリリースしたいという東芝側の要請に応えてベンチャーズは同年5月、当時カリフォルニア州コスタメサにあったビフ・ヴィンセントのフロント・ぺージ・スタジオで「ポップス・イン・ジャパン‛81」のレコーディングを行いました。演奏メンバーはノーキー・エドワーズ（リードギター）、ドン・ウィルソン（リズムギター）、ボブ・ボーグル（ベース）、メル・テイラー（ドラム）のいわゆる “オリジナル・フォー” で、ほかにサポートメンバーとしてメリッサ・ハシンという女性チェリストとジム・イシイという日系のキーボーディストが参加しています。ジム・イシイはキーボードとシンセサイザーによるオーケストレーションのアレンジも担当しています。

　ベンチャーズのカバーはキーもテンポも尺もすべて西城版を忠実にトレースしており、ノーキーが秀樹のボーカルをギターに置き換えて爽やかさと切なさが入り混じった美しいメロディを丁寧に紡ぎ出しています。ちなみに、西城は1955年生まれで団塊の世代よりちょっと下の年代ですが、2人の兄の影響で小学4年生の時にベンチャーズと出会い、兄弟でエレキバンドを結成したのが音楽人生の始まりだったそうです。ベンチャーズがきっかけでギターを始めたというプロのミュージシャンは洋の東西を問わず数多く存在しますが、西城もその一人だったというわけです。

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