タッチアンドゴー＆ゴーアラウンド訓練（宮古島 下地島空港）キャセイパシフィック航空　Ａ３５０

タッチアンドゴーについて

1. タッチアンドゴーの概要
タッチアンドゴーとは、着陸（ランディング）の直後、完全に停止することなく再びエンジン出力を上げて離陸（テイクオフ）に移る一連の動作を指します。

通常、飛行機は着陸すると滑走路を抜けて駐機へと向かいますが、この訓練では滑走路に着地した瞬間に離陸操作を開始します。これにより、一回の飛行（フライト）の中で、最も難易度が高く習熟が必要な「離着陸」のプロセスを短時間で何度も繰り返すことが可能になります。

2. 訓練の主な目的
この訓練の最大の目的は、操縦士の離着陸技術の習熟と判断力の向上にあります。

離着陸回数の確保: 飛行訓練において、離陸と着陸は最も事故のリスクが高く、繊細な操作が求められる局面です。タッチアンドゴーを行うことで、一度離陸してから着陸するまでの時間を大幅に短縮し、効率的に回数をこなすことができます。

接地操作の精度向上: 適切な速度、高度、姿勢で滑走路に接地する感覚を養います。

ゴーアラウンド（着陸復行）の練習: 何らかの理由で着陸をやり直す際の操作と共通点が多く、緊急時の対応能力を磨くことにも繋がります。

機体特性の理解: フラップ（高揚力装置）の操作やエンジンのレスポンスなど、低速域における機体の挙動を深く理解するために不可欠です。

3. 具体的な手順と流れ
一般的な訓練（場周経路：トラフィックパターン）での流れは以下の通りです。

最終進入（ファイナル）: 滑走路に対して適切なパスで降下し、着陸態勢に入ります。

接地（タッチダウン）: 主脚を滑走路に接地させます。

形態変更（コンフィギュレーション）: 接地後、速やかにフラップを離陸位置に戻し、トリム（操縦桿の重さを調整する装置）を再設定します。

加速・離陸（パワーアップ）: エンジンを離陸出力まで上げ、安全な離陸速度に達したところで再び上昇（ゴー）します。

4. 安全面と注意点
タッチアンドゴーは非常に効率的ですが、同時にリスクも伴います。

滑走路長の確保: 着陸後に再び加速するため、通常の着陸よりも長い滑走路が必要です。

操縦過誤の防止: 短時間で多くの操作（フラップ、スロットル、ラダーなど）を行うため、手順の取り違えが起きやすい場面でもあります。

管制との連携: 訓練を行う際は管制官に「タッチアンドゴー」の許可を得る必要があり、他の航空機の動静にも細心の注意を払わなければなりません。

5. まとめ
タッチアンドゴーは、パイロットが初心者の頃からプロのエアライン操縦士に至るまで、生涯を通じて継続される極めて重要な訓練項目です。基本操作の精度を高めるだけでなく、変化する風向きや気象条件の中で正確に機体をコントロールする力を養う、飛行教育の根幹を成すものと言えます。


下地島空港とタッチアンドゴー訓練

下地島空港（沖縄県宮古島市）は、日本で唯一の「民間航空機の訓練専用空港」として誕生した非常にユニークな歴史を持つ空港です。

青い海に突き出した長い滑走路で、旅客機が着陸してはすぐに離陸する「タッチアンドゴー」の光景は、航空ファンにとっての聖地とも言われています。

1. 概要：タッチアンドゴー訓練とは
下地島空港は、3,000mの滑走路を持ち、大型機の離着陸が可能な設備を整えています。

訓練の内容: 主に「タッチアンドゴー（離着陸訓練）」が行われます。これは、航空機が着地した直後に停止せず、そのまま推力を上げて再び離陸する訓練です。パイロットの操縦技術維持や、新人パイロットの機種移行訓練に不可欠です。

環境の利点: 周辺に高い建物や山がなく、航空路の混雑も少ないため、効率的な訓練が可能です。

「17エンド」の絶景: 滑走路の北端（RWY17）は、エメラルドグリーンの海と桟橋のような誘導灯が美しく、日本屈指の絶景スポットとして知られています。

2. 歴史：訓練場の誕生から多目的化まで
下地島空港の歴史は、日本の高度経済成長期における航空需要の拡大と密接に関係しています。

建設の背景（1970年代）
かつて、日本の航空会社は訓練の多くを海外（アメリカなど）に依存していました。しかし、国内で安定して訓練を行う場所を確保するため、1970年代に国と沖縄県によって整備が進められました。

1973年: 空港の設置・管理に関する基本合意。

1979年: 開港。日本航空（JAL）や全日本空輸（ANA）が本格的な訓練を開始。

「屋良覚書」の存在
空港建設時、当時の屋良朝苗沖縄県知事と政府の間で「屋良覚書（下地島空港の利用に関する覚書）」が交わされました。これには「空港を軍事目的に利用しない」「民間航空以外には使用させない」といった内容が含まれており、現在でも空港の運用方針を議論する際の重要な指標となっています。

訓練の縮退と転換期（2010年代〜）
長らく訓練の拠点として活用されましたが、2010年代に入ると大きな変化が訪れます。

JAL・ANAの撤退: 航空機のシミュレーター技術の向上や経費削減により、実機を使った訓練が減少し、JALは2011年度、ANAは2013年度に下地島での定期訓練を終了しました。

旅客便の就航（2019年）: 訓練専用からの脱却を目指し、2019年に新しい旅客ターミナル（みやこ下地島空港ターミナル）が開業。LCC（格安航空会社）や国際線が就航し、観光拠点としての性格を強めました。

3. 現在の状況
現在は、かつてのようなJAL/ANAの大型機が頻繁に飛ぶ光景は少なくなりましたが、以下のような運用が続いています。

多様な訓練: 航空大学校の訓練機や、スカイマーク、海上保安庁の航空機などが現在も訓練を行っています。

観光と訓練の両立: 定期旅客便が発着する傍ら、スケジュールが合えば現在もタッチアンドゴーを見学することが可能です。

補足: タッチアンドゴーの実施スケジュールは、空港の公式サイトなどで公開されているわけではなく、当日の風向きや訓練主体の計画に依存します。