🎵《不朽》｜鬼滅の刃・茶々丸 主題曲— それが始まりだったんだね

《不朽 茶々丸》

茶々丸は、
一匹の猫だった。
言葉を話すことも、
特別な力を持つこともなかった。
けれど、
あの長く残酷な戦いの中で、
彼の存在は、
多くの人の呼吸よりも長く続いた。

薄暗い屋敷の中で、
珠世はいつも静かに茶を淹れていた。
愈史郎はその傍らで墨をすり、
筆を走らせる。
紙の上には、
彼らがよく知るあの顔
悲しみを微笑みで包み隠す、
あの優しい女の人。
窓の外では花が咲き、
散ってゆく。
茶々丸は、
ただ静かにその戸口で見つめていた。

誰も、
彼がどこから来たのかを知らない。
もしかしたら、
珠世が拾ったのかもしれない。
あるいは、
運命が結んだ偶然の出会いだったのかもしれない。
血と炎の渦の中で、
その小さな猫は、
彼らの「日常」そのものになった。

やがて、
戦火が最後の夜を呑み込んだ。
無惨の気配が、
街全体を押し潰すように覆っていた。
珠世の姿はもうなかった。
けれど、彼女は最後の希望を残していた
小さな箱の中に、
鬼の毒を中和する薬が入っていた。
誰もその廃墟を越えて進むことはできなかった。
だから愈史郎は、
その箱を茶々丸に託した。
「行け、茶々丸。」
その声に込められた想いを、
彼は理解していた。
それは信頼の響きだった。

夜の闇の中、
茶々丸は小さな箱を背負って走り出した。
瓦礫と火の粉の中を、
ただまっすぐに。
毛並みは灰に汚れ、
けれど瞳は光を失わなかった。
薬は無事に鬼殺隊の手へと届き、
誰かは毒から目を覚まし、
誰かは再び立ち上がり、
戦い続けた。

誰も知らない、
その猫が誰のものだったのかを。
ただ、
血の滲んだ小さな足跡がいくつか残され、
やがて夜明け前の風の中に、
姿を消したという。
あの夜、
彼は多くの命を救った。
それでも、
静かにあの古い屋敷へと戻り、
いつものように、
絵の前で眠るように横たわった。

時は過ぎ、
街の人々も世代を重ねていった。
それでも、
古い屋敷の窓辺には、
今でも時折、
白い猫の姿が見えるという。
絵の前に座り、
その絵には
春のように微笑む、
美しい女の人が描かれている。

茶々丸は、
もう老いてしまったかもしれない。
けれど、
今もその場所を守り続けている。
絵を、記憶を、そして
時さえも触れられない、
あの優しさを。
きっと、
愛には言葉なんていらない。
一匹の猫と、
一生の待ち続ける時間。
それだけで、
永遠というものを語るには、
十分すぎるのだから。



歌の歌詞：
あの夜　花の香りが満ちてた
彼女は静かに座ってた
小さな猫がそっと近づいて
それが始まりだったんだね

時はゆっくり　遠く流れて
部屋には月と絵だけが残る
彼女が去ったあの日も
猫はまだ　扉の前にいた

茶々丸よ　君は何を見てるの
誰も知らない　その瞳の奥
世界が壊れても　逃げなかった
まるで　彼女を待ってるように

愈史郎は　何度も描いた
彼女の笑顔を　もう一度
窓辺で猫は眠りながら
朝と夜を　見送っていた

長い夜に　声はなくても
そこにあたたかい息があった
年月が過ぎても
その姿は変わらないまま

茶々丸よ　君も覚えてるのかい
あの優しい呼び声を
灯りが消えて　花が散っても
君はそこにいるだけでいい

もし天国があるなら
そこには花が咲いている
珠世が君の名を呼び
愈史郎は微笑むだろう

月明かりが古い壁を照らす
猫の影は　風に溶けていく
茶々丸はもう　鳴かない
だって　彼女が帰ってきたから