大きすぎて経験がない後輩を妻にお願いしてみたら【朗読・小説】

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【作品名】
大きすぎて経験がない後輩を妻にお願いしてみたら【朗読・小説】

【ストーリー】
僕はとしや、今年で五十三歳になる。こうして自分の人生を振り返ってみると、人の縁というものは本当に不思議なものだと思う。田舎の小さな町で生まれ育った僕が、東京の真ん中で、こんなことになるとは、二十代の頃の自分には想像もできなかっただろう。

僕の故郷は、電車も一時間に一本しか来ないような田舎町だった。山に囲まれ、田んぼが広がり、夏になれば蛍が飛び交うような、そんな場所だ。父は農家を継ぎ、母は近所のスーパーでパートをしていた。決して裕福ではなかったが、愛情深い両親のもとで、僕はのびのびと育った。

ただ、勉強だけは得意だった。別に努力したわけではない。ただ、本を読むことが好きで、知らないことを知ることが楽しかった。それだけのことだ。しかし、その「それだけのこと」が、僕の人生を大きく変えることになる。高校三年生の夏、担任の先生に呼び出された。

「としや、お前の成績なら、東京の国立大学を狙えるぞ」正直、驚いた。
東京なんて、テレビの中の世界だと思っていた。修学旅行で一度行ったきりで、人の多さと建物の高さに圧倒された記憶しかない。「でも先生、お金が」「奨学金がある。お前の成績なら、返済不要のものも狙える」

その言葉が、僕の背中を押した。両親に相談すると、母は少し寂しそうな顔をしたが、父は黙って頷いた。「行ってこい。お前の人生だ」父のその一言で、僕の東京行きは決まった。大学生活は、刺激的だった。田舎では見たこともないような人々、聞いたこともないような考え方、

触れたこともないような文化。毎日が発見の連続だった。しかし同時に、自分がいかに「田舎者」であるかを痛感する日々でもあった。服装、話し方、振る舞い。周りの学生たちは、どこか洗練されていて、僕だけが浮いているような気がした。それでも、勉強だけは誰にも負けなかった。

成績は常にトップクラスで、教授たちからも一目置かれるようになった。就職活動では、大手広告代理店から内定をもらった。田舎の両親は電話口で泣いて喜んでくれた。「としや、よくやった。お前は私たちの誇りだ」母の言葉が、今でも胸に残っている。

広告代理店での仕事は、想像以上にハードだった。毎日終電で帰り、休日出勤も当たり前。しかし、やりがいはあった。自分のアイデアが形になり、世の中に出ていく。その達成感は、何物にも代えがたかった。入社して十年が過ぎる頃には、僕は係長に昇進していた。

部下もでき、責任ある立場になった。仕事は順調だった。しかし、ある日、後輩のひとしにこう言われた。「としやさん、失礼かもしれませんが、もう少し身なりを気にされた方がいいかもしれません」ひとしは僕が係長になった年に入社してきた新人で、今では僕の右腕とも言える存在だ。

彼は僕より十六歳年下だが、遠慮なく意見を言ってくれる。それが彼の
良いところだ。「身なり？どこかおかしいか」「おかしくはないんですが、としやさんの立場だと、もう少し洗練された感じがあった方が、クライアントへの印象も良くなると思うんです。


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