100年前に誕生した“治安維持法”絵を描いただけで逮捕された103歳の証言
Автор: HBCニュース 北海道放送
Загружено: 2025-05-26
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自分の思うままに、言葉を綴ったり、絵を描いたり、そんな自由が許されなかった時代が、かつてありました。
史上最悪の法律と呼ばれた“治安維持法”。
いわれなき罪を背負わされた男性は、いま103歳となりました。
戦前から終戦までの20年間、数々の弾圧事件を引き起こし、史上最悪と呼ばれた法律。
1925年に制定された「治安維持法」です。
終戦の年、GHQの命令で廃止となるまで、国に異議を唱える動きを封じるため、表現や言論の自由を強引に奪いました。
治安維持法犠牲者国会賠償要求同盟・小松実副会長
「治安維持法体制に決着をつけない限り、この国の憲法も民主主義も生きて花開くことができない」
そんな悪法の犠牲となった人たちへの、謝罪と賠償を求める集いが、今年も開かれました。
治安維持法による逮捕者は、数十万人とされ、1600人を超える命が、死に至る拷問などで奪われました。
旭川の高齢者施設に暮らす、菱谷良一さん(103)。
治安維持法で逮捕された一人です。
10年ほど前から取材を重ねてきました。
菱谷良一さん(103)「絵を描いただけなのに逮捕されて、1年何か月も(刑務所に)突っ込まれてさ…忘れられないよ」
逮捕されたのは、旭川師範学校に通っていた19歳のとき。
1941年、昭和16年のことです。
美術部員だった菱谷さんが描いた作品です。
当時の特別高等警察、特高は、この絵を問題視して逮捕したのです。
その際、特高は、絵に描かれた“本”について「共産主義の本を読んでいるに違いない」とこんな言いがかりをつけました。
菱谷良一さん(2020年の取材)
「まずは『お前は共産主義を信奉して、日本を社会主義化するために運動をしたんだろう』と言われた。とんでもないしょ?『いやいや私は…』と言ったら一発殴られた。私まだ20歳前でしょ?少年だわ。おっかないおっさんに殴られたら、こうなるしょ。びっくりして」
でっち上げの供述調書などから有罪となり、1年3か月、投獄されました。
旭川師範学校で逮捕されたのは、菱谷さんだけではありません。
身の回りの生活を、ありのままに描いた作品は、治安維持法違反とされ、学生や教師ら26人が逮捕されました。
いわゆる“生活図画事件”です。
菱谷良一さん(2020年の取材)
「あんたらは考えられないだろう?零下30度で暖房もない部屋で、なんもしないでこうやっている心境を」
“治安維持法”の狙いは当初、社会主義や共産主義運動の広がりを阻止することでした。
それが次第に学問や思想、芸術などに対象を拡大させていったのです。
小樽商科大学・荻野富士夫名誉教授
「戦争に対する非戦であるとか、こういう考え方の土壌を作っていくんではないかと。当時の特高や思想検事たちは、そこに狙いをつけていったと」
いわれのない罪を背負わされた“生活図画事件”。
菱谷さんは、最後の生き証人です。
定期的に受けている経過観察のため、この日は病院へ…。
医師「そこまでひどく進行していなくて、薬で対応できている状態。にっちもさっちも行かなくなったら、うちで入院してもらうしかないんですけれども、どうでしょうか」
3年前に「膀胱がん」が見つかりました。
菱谷良一さん(103)
「肉体的に痛いとかかゆいとかそういうのは何にもないの」
手術や治療は、希望していません。
以前と変わらず、元気そうに振る舞いますが、今年11月で104歳を迎えます。
ともに苦しみを強いられた仲間のために、菱谷さんは毎年5月、東京での国会請願を、使命としています。
ところが…。
菱谷良一さん(103)
「もう行かないよ俺。もう腰動かさん」
「いまになったら、何もかも面倒くさくなった。どうでもいいや」
何度ただしても、真剣に向き合わない国の姿勢に、もう請願には行かないと決めたのです。
菱谷良一さん(103)
「賠償金は出せないけれど、みんなで頭下げます…くらいでもいいんだよな。100年前にどれだけね…罪もないのにな」
国会請願で菱谷さんが座るはずだった場所は、空席のまま、そこに用意されていました。
治安維持法犠牲者国会賠償要求同盟・田中幹夫副会長
「いつもここには、昨年は102歳の菱谷良一さんが、お見えになりました。残念ながら今年はいけないということになりました」
戦後80年となり、戦争の証言者たちは、少なくなる一方です。
菱谷良一さん(103)
「(車庫の中)覗いてみるかな」
自由に絵を描くことすら許されなかった、あの時代…。
菱谷良一さん(103)
「これは歌志内の炭鉱」
「これはアメリカのコロラド。これジョン・ウェインだ。懐かしいな」
「(これは)ばあさん。俺のテーブルの前にいるんだ」
菱谷さんがいま、世の中に望むこと。
菱谷良一さん(103)
「満ち足りた世界にしてほしい。平和と自由。これしかない」
同じ過ちを繰り返さないために、103歳の“生き証人”は、未来へつなぐ教訓を人生をかけて語り続けます。
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