平成２８年度 春期 応用情報技術者試験 午後問２過去問題解説

この動画では、平成28年度春期 応用情報技術者試験 午後問題 問2「経営戦略」を題材に、事業継続計画（BCP）の策定プロセスと、そこに盛り込まれた経営判断のポイントを丁寧に解説していきます。中核部品を納品するA社が、大規模地震という重大リスクを認識し、どのように事業影響度分析（BIA）を行い、復旧優先順位を決め、目標復旧時間や在庫水準を含む具体的なBCPを策定していくのかが、物語形式で示されているのが本問の特徴です。単なる用語暗記ではなく、経営戦略とリスクマネジメントを結び付けて考えられるかどうかが試される、応用情報技術者試験らしい良問と言えます。

まず押さえておきたいのは、この問題が「BCPの全体像」を一通りなぞらせる構成になっているという点です。大規模地震というシナリオの下で、A社が自社の複数事業に対する影響度を分析し、取引先B社との関係も含めてどの事業を優先的に復旧させるのかを検討する場面が描かれます。ここでは、単に売上高の大きさだけでなく、サプライチェーンの中における自社の位置付けや、顧客側の操業に与えるインパクトといった観点から、X事業とY事業のどちらを優先すべきかを判断する必要があります。BIAの結果に基づいてX事業の復旧を優先するという結論に至る背景を読み解くことが、この設問の重要な読解ポイントです。受験者は、事業継続の優先順位が「自社都合」ではなく「顧客やサプライチェーン全体への影響」を軸に決められていることを、問題文の記述から的確に汲み取ることが求められます。

次に、多くの受験者が計算ミスをしやすいのが、目標復旧時間（RTO）を求める設問です。本問では、大規模地震発生日からBCP発動日までの期間と、そこから実際に出荷ラインが復旧するまでの見込み日数が具体的に与えられています。RTOを算出する際には、BCPを発動するまでの初動期間をどう扱うかがポイントとなり、問題文では三日目にBCPを発動することが明記されています。このとき、単純に地震発生日から復旧完了日までの暦日を数えるのではなく、BCP発動日を除いてカウントし、結果としてX事業の出荷ライン復旧までの時間を十六日と導き出す計算プロセスを理解しておく必要があります。午後Ⅰの計算問題では、与えられた条件文の一行を見落としただけで答えがずれてしまうため、「どこからどこまでをRTOとして数えるのか」という定義を意識しながら式を組み立てることが合否を分けるポイントになります。

さらに、目標復旧レベル（RLO）の設定と在庫水準の検討も、本問の重要なテーマです。取引先であるB社からの要請により、A社はX事業の目標復旧レベルを七五パーセントに設定します。このとき、B社側の製造量が変わらない前提で、四週間後に必要な製造量を確保するためには、どれだけの完成品在庫を持っておく必要があるのかという具体的な在庫日数の計算が求められます。問題文では、必要な最少在庫日数として十四日分という値を導き出すことができますが、その背景には「復旧後にどれだけのペースで生産できるか」「復旧までの間どれだけ供給が滞るか」といった複数の条件が絡んでいます。ただ公式を当てはめるのではなく、サプライチェーン上での在庫の役割を意識し、なぜ十四日分という結果になるのかを論理的に説明できることが、経営戦略問題としての理解度につながります。

BCPの検討において忘れてはならないのが、法令遵守の視点です。本問では、地震発生直後に従業員へ駆け付けを指示する場面が取り上げられ、労働契約法第五条に基づく安全配慮義務が問われます。事業継続の重要性を理由に、危険な状況下での出社を強要することは許されず、事業継続と従業員の安全をいかに両立するかが、BCPの成否を分ける重要なテーマとなります。試験では、法律名や条文を丸暗記しているかどうかではなく、「災害時であっても、企業は従業員の生命・身体の安全に配慮する義務を負っている」という原則を理解し、それをBCPの運用方針にどのように反映させるべきかを説明できるかが問われています。

また、本問はBCPを一度策定して終わりとせず、事業継続管理（BCM）という継続的な枠組みの中で捉える必要があることも示しています。事業中断が続けば、売上および営業利益が大きく減少し、キャッシュフローが悪化します。BCPの目的は単に「事業を止めないこと」ではなく、「企業価値の維持」と「サプライチェーンの維持」にありますから、事業中断による資金繰りへの影響を把握することは経営上不可欠です。また、A社だけがBCPを整備していても、部品供給元であるD社やE社が災害で操業停止に陥れば、結果としてA社やB社の生産は継続できません。そのため、サプライチェーン全体のレジリエンスを高めるために、重要な取引先にもBCPの策定や見直しを要請する必要があります。このようなサプライチェーン全体を視野に入れたBCMの考え方が、本問を通じて問われています。

さらに、BCPの有効性を高めるためには、計画を作成しただけで満足するのではなく、PDCAサイクルを回し続けることが欠かせません。訓練や模擬演習を通じて計画の実効性を検証し、問題点や改善点を洗い出してBCPに反映していくことで、初めて現実に役立つ計画となります。試験の設問でも、BCPを見直す目的として、単に「定期的に見直すことが大切だから」といった抽象的な答えではなく、「訓練結果や災害時の実績を踏まえ、目標復旧時間や在庫水準、代替手段の妥当性を検証し、必要に応じて修正するため」といった具体的な表現が求められます。採点講評でも、一般論の羅列ではなく、自社と取引先の状況、財務への影響、法令遵守といった複数の観点を踏まえた論理的な記述が高く評価されることが繰り返し指摘されています。

午後問題として見たとき、本問の難所は、経営戦略の用語やフレームワークを知っているかどうかではなく、長い文章の中に散りばめられた条件を正確に拾い上げ、数値計算と記述問題の両方に一貫性を持たせて解答できるかどうかにあります。X事業とY事業の優先度、RTOの計算における日数の数え方、RLO七五パーセントと在庫十四日分の関係、災害時の従業員対応と安全配慮義務、サプライチェーン全体を対象としたBCMの必要性など、設問ごとにテーマは異なっていても、根底には「中核部品を供給する企業として、A社がどのような責任と役割を果たすべきか」という一つのストーリーが流れています。このストーリーを頭の中で整理しながら設問を追っていくことができれば、多少計算が複雑でも落ち着いて解答できるはずです。

この動画では、問題文の読み解き方から、BIAと復旧優先順位の考え方、RTO・RLO の具体的な計算手順、法令遵守と安全配慮義務の位置付け、サプライチェーン全体を見据えたBCP・BCMの考え方までを一つの流れとして整理し、午後問題で問われる「経営戦略としての事業継続」の本質を分かりやすく解説していきます。BCPは応用情報技術者試験の経営戦略分野で繰り返し登場する頻出テーマであり、ここで出題の意図と論理構成を押さえておくことで、他年度の類題にも対応しやすくなります。試験対策としてはもちろん、実務でBCPやリスクマネジメントに関わる方にとっても、自社の事業継続体制を見直すヒントが得られる内容になっていますので、ぜひ最後まで視聴して、事業継続計画を「単なる文書」ではなく「経営戦略の一部」として捉える視点を身に付けてください。