精神科の魅力と患者さんへの思いを精神科医が語りました。

私は昔から「人」が好きです。それは、特定のタイプに限らず、どんな人も好きという感覚に近いです。例えば、犬好きな人が「この犬種しか好きじゃない」というよりも、いろんな種類の犬を好きになるのと同じようなものです。だからこそ、精神科の患者さんに強く惹かれるのかもしれません。

精神科の患者さんは、時に「ハンディキャップを抱えながらも頑張っている人たち」だと感じることがあります。もともとメンタルが強く、何の問題もなく生きている人もたくさんいますが、精神疾患を持つ方々は、自分の困難と向き合いながら、それでもより良い生き方をしようと努力されている。その姿が、とても美しいと思うんです。

・精神科と他の診療科の違い

内科や外科では、病気の診断と治療が主な仕事になります。例えば、肺がんの治療では、どの抗がん剤を使うか、安全に投与するための管理など、膨大な知識と技術が求められます。そのため、患者さん個人に深く関わる時間はどうしても限られてしまいます。

一方、精神科では「この病気にはこの薬」といった明確な決まりが少なく、エビデンス（医学的な根拠）もまだ発展途上です。そのため、治療においては「どんな人に、どんな治療が合うのか」を考える余地が大きく、患者さん一人ひとりに向き合う時間が確保しやすいのです。これは、精神科の大きな魅力のひとつだと感じています。

・精神疾患の特徴と自己信頼の難しさ

精神疾患の特徴のひとつに、「自分で自分を信じられなくなる」ことがあります。たとえば、気持ちが大きく浮き沈みする、突然動けなくなる、感情がコントロールできなくなるなど、自分の意思とは関係なく症状が現れることがあります。すると、「次にいつ何が起こるかわからない」という不安が生まれ、自信を失ってしまうのです。

仕事をしていると、ある程度の「無理」は必要になります。ですが、精神疾患を抱えていると、この「無理」が効かなくなってしまう。自分の限界が分からず、頑張りすぎて体調を崩してしまうこともあります。その結果、「自分は信頼できない」と感じてしまい、さらに落ち込んでしまうという悪循環に陥ることもあります。

しかし、実は他人はそこまで自分に期待していないことが多いものです。自分が「こんなに無理をしているのに」と思っていても、周囲はそれに気づかないことがほとんど。つまり、無理をしてでも期待に応えなきゃと思い込んでいるのは、案外、自分自身だったりするんです。

・精神科の役割と治療の目的

精神科の治療の目的は、「患者さんが少しでも楽に生きられるようになること」です。病気を完全に治すことが難しい場合もありますが、症状と上手く付き合いながら、自分なりの生活を築いていくことは十分可能です。

また、患者さんのご家族も、時に「期待しないことの苦しさ」を感じることがあります。家族としては「もっと元気になってほしい」と願いますが、思うようにいかない現実に直面し、どう向き合えばいいのか分からなくなることもあるでしょう。精神科では、そうした家族の気持ちにも寄り添いながら、治療を進めていくことが大切だと考えています。

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