【要注意】うつ病の焦燥感はどうしたらいい？【精神科医が解説】

質問「うつ病の焦燥感はどうしたらいい？」に精神科医が回答します。
#精神科 #うつ病 #焦燥感

0:05 （１）はじめに
0:19 （２）うつ病で目立つ焦燥感とその影響
3:01 （３）うつ病の焦燥感はどうしたらいい？
3:40 ①自分で落ち着く工夫
4:35 ②専門的治療
6:00 ③入院の検討
8:00 （４）まとめ

うつ病では落ち込みのほか、どうにも落ち着かない「焦燥感」が目立つ事があります。焦燥感が強いと休養が難しく悪循環になるため、早めの対策が必要になります。

ご質問「うつ病の焦燥感はどうしたらいい？」について、精神科医9分で回答しています。
出演：春日雄一郎（精神科医、医療法人社団Heart　Station理事長）

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（１）はじめに

うつ病というと、気分の落ち込みや無気力感をイメージされる方が多いかもしれません。しかし実際には、じっとしていられないような強い焦りや落ち着かなさ、つまり「焦燥感」に苦しむ患者さんも少なくありません。この焦燥感は、単なる心の問題ではなく、悪化すると危険を伴うこともある重要な症状です。

そもそもうつ病は、脳の機能不全によって起こる病気です。脳内の神経伝達物質であるセロトニンの不足などが背景にあり、気分の落ち込みや興味の喪失が長期間続く状態を指します。日本では約15人に1人が生涯に一度は経験するとされる、決して珍しくない病気です。

うつ病の症状は多岐にわたります。気分の沈み込みや楽しめない感覚、悲観的な思考、集中力の低下といった心の症状。不眠や過眠、食欲低下、頭痛、肩こり、倦怠感などの身体症状。そして表情が乏しくなったり、口数が減ったり、動作が極端に遅くなるといった行動の変化が現れます。その中でも焦燥感は、特に注意が必要な症状の一つなのです。

（２）うつ病で目立つ焦燥感とその影響

うつ病における焦燥感は、症状が強い急性期に特に現れやすい特徴があります。内側から湧き上がってくるような焦りの感覚は、患者さん本人にとって非常に苦しいものです。

この焦燥感が強まると、目に見える行動として現れてきます。目的もなく部屋を歩き回ったり、座っていることができなくなったりします。手の指で机を叩き続けたり、足を絶えず揺らしたり、手を擦り合わせるといった反復動作も目立つようになります。さらに、心のざわつきや切迫感とともに、動悸や息苦しさ、発汗などの身体的な症状も伴うことがあります。

ここで重要なのは、焦燥感と不安の関係性です。不安は主に未来への漠然とした心配や恐怖といった、内側で起こる思考や感情です。一方、焦燥感は内側の緊張を外側の行動で発散しようとする状態で、より身体的・行動的な側面が強くなります。ただし、これらは密接に関連しており、強い不安が焦燥感を引き起こすなど、両者が合併しやすく相互に影響を及ぼし合います。

焦燥感がもたらす影響は深刻です。まず、焦燥感が強いと休養がとれません。うつ病の回復には休養が不可欠ですが、焦燥感によって休めない状態が続くと、脳のエネルギーが回復せず、症状がさらに悪化する悪循環に陥ってしまいます。

また、人間関係のトラブルも起きやすくなります。焦燥感から意図せずに周囲に八つ当たりをしてしまい、その後で強い自己嫌悪に陥るというパターンを繰り返すことがあります。さらに危険なのは、焦燥感によってリスク判断力が低下し、突発的で衝動的な行動をとってしまう可能性が高まることです。

（３）うつ病の焦燥感はどうしたらいい？

では、このような焦燥感にはどう対処すればよいのでしょうか。基本的な考え方は「頭を休ませることが最優先」ということです。状況に応じて、以下の3段階の対策を検討していきます。

①自分で落ち着く工夫

まず自分でできる工夫として、安全確保を最優先に考えます。危険なものは身の回りから遠ざけ、テレビやインターネットなどの情報刺激もできるだけ遮断します。この時期は冷静な判断が難しいため、転職や離婚といった重要な決断は延期することが賢明です。

何より大切なのは、質の良い睡眠を確保することです。少しでも睡眠をとることで頭を休ませ、悪化を防ぐことができます。刺激を減らすことで考えすぎや焦燥感の悪化を防ぎながら、休養に専念する環境を整えていきましょう。

ただし、これらの対策を試みても改善が難しい場合も多いのが現実です。不調が続く場合は、早期に専門医を受診することが重要です。

②専門的治療

焦燥感は強くなると危険な行動と直結する可能性がある、要注意なサインです。専門的な治療では、薬物療法を中心に、脳の興奮を抑えて休養を可能にし、悪循環の流れを変えていきます。

薬物療法では、即効性のある抗不安薬が積極的に使用されます。依存性には注意が必要ですが、焦燥感が強い場合には効果的です。また、睡眠薬を使って眠りを改善することで、頭を休ませる時間を確保します。根本的な治療薬である抗うつ薬も使用されますが、効果が現れるまでに時間がかかるため、特に治療初期は補助的な薬が重要になります。

薬以外の治療的対策も大切です。休職によってストレス源から距離をとり、治療に専念できる状態を作ります。家では静かで落ち着ける空間を確保し、家族の温かいサポートを受けながら療養します。ここで重要なのは、休養を自分に許可することです。休むことは怠けではなく「積極的な治療活動」であり、むしろ考えすぎることの方が回復を妨げるということを理解する必要があります。

③入院の検討

外来治療で改善が見られない場合、特に焦燥感が強く、薬の調整や休養を試みても悪循環が続く場合には、入院治療を検討する必要があります。強い焦燥感から衝動的な行動が抑えられず、自分や周囲に危険が及ぶ可能性がある場合は、入院による保護的な環境での治療が望まれます。

入院治療では、医療スタッフが見守る安全な環境で、集中的な治療を受けることができます。観察下での療養により最適な薬の調整が可能になり、規則正しい生活リズムの立て直しも図れます。入院期間は通常1～2か月程度で、制限のある集団生活にはなりますが、安全確保と治療に専念できる環境が整います。

入院中は、初期には徹底的な休養に専念し、心身のエネルギー回復を図ります。その後、観察下で丁寧な薬の調整を行いながら、生活リズムを改善していきます。症状が改善してきたら、作業療法などで徐々に活動を増やし、気持ちの整理をしながら退院に向けて準備を進めていきます。

（４）まとめ

うつ病における焦燥感は、単なる焦りではなく、適切な対処が必要な重要な症状です。休養を妨げる焦燥感は症状を悪化させる悪循環を生み、時には危険を伴うこともあるため、早期の対応が求められます。

対策は大きく3段階に分けられます。まず自分で環境を整備して休む工夫をし、それでも改善しない場合は専門家による薬物療法を中心とした治療を受け、さらに必要な場合は入院治療を検討します。

どの段階においても最も重要なのは「焦燥感にのまれず、頭をしっかり休ませる」ということです。焦燥感は非常に苦しい症状ですが、適切な治療と十分な休養により、必ず改善への道は開けます。一人で抱え込まず、早めに専門医に相談することが、回復への第一歩となるでしょう。

こころ診療所グループ（医療法人社団Heart　Station）
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【監修者】
医療法人社団Heart　Station　理事長　府中こころ診療所院長　春日雄一郎
精神科医（精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医）
2005年東京大学医学部卒業、NCNP病院、永寿会恩方病院等を経て、2014年に府中こころ診療所を開設、その後医療法人化し理事長に就任、2021年8月に分院「こころ診療所吉祥寺駅前」を開業。メンタルクリニックの現場で、心療内科・精神科の臨床に取り組み続けている。